こんにちは!千葉県で犬のしつけトレーニングを提供している、inuaオーナーの佐藤です。

前回の記事では、多くの飼い主さんを悩ませる犬の「リアクティビティ」について、その定義や根本的な原因、そして改善の鍵となる「トリガー」と「閾値」について考えました。
前回の記事はこちら:【犬の悩み】吠える・唸るのはなぜ?「リアクティビティ」の原因と向き合い方
今回は、リアクティビティを改善していくための具体的なアプローチ、その基礎となる「行動修正の基本原理」と、お家でできる「基本スキル」のトレーニングについてお話しします。
罰ではなく、ポジティブに導く 〜 行動修正の基本原理 〜
リアクティビティの改善において大切なのは、科学的根拠に基づいた、犬を傷つけない優しいアプローチを用いることです。
怖がらせたり、罰を与えたりして行動を無理やり抑え込もうとする方法は、根本的な解決にならないばかりか、犬の恐怖心や不安を増大させ、飼い主さんとの信頼関係を損なう可能性があります。
それに、個人的な考えですが、犬を傷つけるようなアプローチは、僕たち人間の精神衛生にも悪影響を及ぼすと思うんです。
僕たち犬の飼い主が目指すのは、犬のネガティブな感情(怖い・不安・欲求不満)をポジティブなものに近づけ、望ましい行動(落ち着いた行動)を自ら選択できるように導くことです。
そのために、以下の3つの原理を活用します。
1. 陽性強化(Positive reinforcement, PR)
- 目的:
犬にしてほしい行動を増やす - 方法:
犬が望ましい行動(例:トリガーを見ても落ち着いている、飼い主に注目する)をした直後に、犬が大好きな報酬(おやつ、褒め言葉、おもちゃ)を与えます。 - ポイント:
・報酬の価値:
リアクティブな状況では、普段のおやつよりもっと魅力的な「特別な報酬」を使うと効果的です。
・タイミング:
望ましい行動の直後(1〜2秒以内)に与えることが重要です。
・一貫性:
繰り返し一貫して行うことで、犬は「この行動をすると良いことがある!」と学習します。
・避けるべきこと:
チョークチェーン、プロングカラー、電気ショックカラー、などの使用、大声での叱責、リードを強く引くなどの罰や嫌悪刺激は、恐怖や不安を悪化させる可能性があるので絶対に避けましょう。
2 . 脱感作と拮抗条件づけ
- 目的:
トリガーに対するネガティブな感情(恐怖・不安・興奮)を、ポジティブな感情に近づける。リアクティビティ改善の中心的なテクニックです。 - 方法:
・脱感作:
犬を閾値以下のレベルで、トリガーに意図的に、ごく短時間だけさらします。そして、徐々に強い刺激(距離を縮める、時間を少し延ばすなど)に慣らしていきます。
・拮抗条件づけ:
犬が苦手なトリガーが現れた瞬間に、特別な報酬を与え始め、トリガーが見えなくなったら与えるのを止めます。これを繰り返すことで、「苦手なものが出てきたら、大好きなものがもらえる!」という新しい学習を促し、トリガーに対する印象を「嫌なもの」から「良いことの前触れ」へと変えていきます。 - 実践のポイント:
・脱感作と拮抗条件づけの組み合わせ:
多くの場合、この二つを組み合わせて行います。まず、トリガーから十分な距離をとり(脱感作)、犬がトリガーを認識しつつも落ち着いている状態で、すかさず特別なおやつを与え続けます(拮抗条件づけ)。トリガーが見えなくなったら与えるのをストップします。
・閾値以下で行うことが絶対条件:
犬が吠えたり、怖がったり、興奮するレベルの刺激で行っても効果的ではありません。必ず、犬が冷静でいられるレベルから始めます。もし反応してしまったら、すぐに距離をとるなどして刺激のレベルを下げます。
・フラッディング(洪水法)は避ける:
犬が怖がる刺激に無理やり長時間さらす方法は、状態を悪化させる可能性が高いため、行わないでください。
3 . 管理(Management)
- 目的:
犬がリアクティブな反応を起こしてしまう状況を、可能な限り未然に防ぐこと。トレーニングと並行して行う非常に重要な戦略です。 - 方法:
・犬が苦手なトリガーに、反応してしまうレベルで遭遇する機会をなくします。
・これにより、望ましくない反応(吠える、飛びかかる)を「練習」してしまうことを防ぎ、脱感作・拮抗条件づけなどのトレーニングが効果的に行える「閾値以下」の状態を保ちます。 - 具体例:
・刺激の少ない静かな時間帯や場所を選んで散歩する
・散歩ルートを変更する
・角を曲がる前に周囲を確認する
・車や植え込みなど、視覚的な障壁を利用してトリガーを避ける
・特定のリードやハーネス、ヘッドカラーなどを使用する(罰としてではなく、安全確保やコントロールを補助するため)。 - 重要:
管理はトレーニングの「手抜き」ではなく、学習効果を高め、犬と飼い主の安全を守るための、積極的で不可欠な要素です。
家で始める、リアクティビティ改善のための基本スキル練習
まずは刺激の少ない安全な環境(家の中・敷地内)で、以下の基本的なスキルを教えておくと改善に役立ちます。
飼い主への注目を促す練習(「アイコンタクト」など):
- 目的:
興奮しそうな場面で、犬の注意をトリガーから飼い主さんに向けさせ、落ち着かせる。 - 練習方法:
静かな場所で、名前を呼んで目が合ったらすぐに報酬を与える。慣れてきたら名前に「見て」などの言葉(キュー)を加える。目が合っている間「そう、そう、そう」や「いい子」などの言葉をかけ続けて、目が合っている時間を延ばしたり、軽い誘惑(おもちゃを転がす)がある中で練習します。一回のセッションは短く、楽しく終わるようにします。
衝動を抑える練習:
- 目的:
興奮や欲求を感じていても行動を抑える能力を高める。 - 練習方法:
「マテ」という言葉による指示とハンドシグナルで、最初は短い時間、短い距離から始め、徐々に待つ時間、飼い主さんとの距離のレベルを上げていきます。ハンドシグナルは、成功して褒めて解放するまで出し続けます。成功したら必ず褒めて解放(の合図)してあげることが大切です。
緊急回避・Uターンの練習:
- 目的:
予期せずトリガーに遭遇してしまった時に、パニックになる前にスムーズにその場を離れられるようになる。 - 練習方法:
まずは、声で合図(「Uターン」)を出しながらおやつで誘導し、素早くくるっと180度方向転換する。うまく着いてこれたら、褒めてあげ手に持っているおやつを与える。声の合図にうまく反応できなければ、犬の鼻先におやつを持っていき匂いを嗅がせて誘導する。 - ポイント:
このスキルは、いざという時に確実に使えるように、普段から楽しく練習しておくことが重要です。
まとめ
今回は、リアクティビティ改善の核となる「陽性強化」「脱感作・拮抗条件づけ」「管理」という3つの基本原理と、落ち着いて対処するための「基本スキル」について説明しました。
次回は最終回。これらの原理とスキルを実際の散歩でどのように活かしていくのか、具体的な実践テクニックと、改善を成功させるためのマインドセットについてお話しします。
今日は、「【犬の悩み】吠え・興奮をポジティブに変える!リアクティビティ改善トレーニングの基礎」というブログでした。
いつも、ご覧いただきありがとうございます。